コラム

今を生きる「忘れる力」

未来や過去にエネルギーを送り続けて、今が枯渇していないだろうか。

 私は物忘れがひどいと思われている。そもそも覚える気がないだけなのだが、逆に何でも覚えている人は大変だろうなと思う。なぜなら、心地よく生きていくためには、「忘れる力」も必要だからだ。

 私は某大手電機メーカーの宣伝企画で働いていたことがある。宣伝の企画をCMや新聞広告、カタログ、WEBなどにする仕事だった。仕事の範囲が広いので、関わる人も多い。プロジェクトによっては50名以上関わっていることもあった。毎日150件以上のメールに対応し、いくつもの会議に出て、打ち合わせや資料作りをする。それらをこなしながら、出張で全国を飛び回っていた。当時、歩く時間も惜しくて歩きながらノートパソコンで文字を打つ「歩きパソコン」をマスターしていた。

 今振り返ると、毎日分刻みのスケジュールで、よく精神的におかしくならず、自分を保つことができたなぁと思う。ストレス耐性が強いというより、そこで身についた忘れる力が大きかったのかもしれない。メールを返信したら内容を忘れ、忘れてはいけないことはノートに書いたら忘れる習慣が、いつの間にかできていたのだ。これは私の自己防衛反応だったのかもしれないが、ここで鍛えられたおかげで忘れる力が開花した。

 人は覚え続けることに、とてもエネルギーを必要とするそうだ。私は早々に覚えることを諦めて省エネモードになったわけだ。それからは起こるかどうかわからないことを心配し続けたり、過去の失敗を後悔し続けたりすることはなくなっていった。未来や過去に考えがとらわれていると、この瞬間にある心身のエネルギーを未来や過去に送ってしまい、本来、今に注ぎこめるはずのエネルギーが枯渇してしまうのかもしれない。忘れることは「今を生きる力」になるのではないだろうか。

 しかし、覚えていないといけないこともある。去年は5年目の結婚記念日を忘れて予定を入れてしまい、妻をがっかりさせてしまった。今年は手帳に書いたので、もう忘れる心配はない。書かないと覚えられないのか? と突っ込まれそうだが、私が忘れているから、夫婦円満にいくこともあるはずだ。そう書いていたら、妻には否定された。「なんでも忘れる習性がある」という夫を、「禅の人なんだな」と柔軟に受け入れる妻の懐の深さが夫婦円満の秘訣なのだそうだ。夫婦は絶妙なバランスで成り立っているようだ。これはメモをしておかなければ(笑)。

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