スキーのインストラクターをしていたことがある。スキー場に住み込んで小学生や中学生の団体にスキーを教えていた。子どもたちのクラスをする際に気をつけなといけないことは、「雪を触らせないこと」だ。スキー場で雪を触らせないことは難しい。子どもの誰かが雪を投げ始める次第にエスカレートし雪合戦になる。そうなると収拾がつかなくなり、クラスが崩壊する。だから、子どもたちが飽きて雪を触らないように、その場に応じてクラスの内容を工夫しなくてはいけない。

 私は3歳からスキーを始めた。父の趣味がスキーで、冬になるといろいろなスキー場へ連れて行ってくれた。小学生のころは楽しみだったが、中学生になるスキーが嫌になっていた。父は一人で出かけることが苦手だったので、必ず家族の誰かを連れて行く。母と弟は早々に「行きたくない」宣言をしていたので、冬の週末の度に父と私の二人でスキーに出かけることが多くなった。スキー場に着くと、父は上級者コースに行きたいので、私も強制的に一緒に行くことになる。父は斜面の角度が急だろうが、雪が凍っていようが、モーグルのコースのようなコブがあろうがおかまいなしで私を連れて行く。「倒れと雪に埋もれて起き上がれないぞ」と言残して、誰も滑っていない何十センチも新雪が積もったどこがコースかもわからなところを滑っていく。私は足をガクガク震わせながら、必死について行くしかなかった。しかし、高校生ぐらになると、父との実力差が逆転する。父と二人でスキーに出かけても、私はより困難なコーにチャレンジするので、一緒に滑ることはなくなっていた。ときどきリフ上から見たコースを滑る父の姿は楽しそうだった。

 父がどういう気持ちで私にスキーをさせたのかはわからないが、大人になっても好きになれるものを残してくれたことに感謝している。私は子どもを育てたことないので誰かに何年もかけて何かを経験させてあげることはしたことがない。それができる親が羨ましく思うときもある。

 父が亡くなって10年が経つ。父の写真を飾ろうと妻が言ってくれた。でも、写真は実家にあると伝えると、「じゃあ、これでいっか」と、写真立てに「ピカソ」の写真を入れていた。「お父さん、ピカているよね」と工夫がユニークな妻。私ピカソの写真に向かって手を合わ線香を立ててみる。すると、ピカソが父に見えてくるから不思議だ。

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