昨年2月、コロナウイルスの感染者が増え始めていたなか、私は台湾の高雄へ行った。目的は広島の少林窟道場の井上老師と一緒に開発した新しい禅チェアを商品化するためだ。禅チェアとは、座るだけで健康になってしまう椅子である。
人はそもそも座るようにできていない。オーストラリアの研究機関が、1時間座り続けると22分寿命が縮まるという調査結果を出したというニュースがあったが、江戸時代の学者である貝原益軒の『養生訓』には、すでに「座り続けるな」と書かれている。「言い伝え」が科学的に証明されたと言えるかもしれない。
身体は動くことでバランスされる。なぜなら、私たちは常に下向きに働く「重力」からは絶対に逃れられないからだ。歩き始めた子どもを見るとよくわかる。まだ筋力が発達してないのに重い頭を支えて歩けるのは、動きのなかで身体をバランスしながら、重力をうまく利用しているからだ。重力をしっかり受けられる骨格であれば、身体は緊張のない脱力した状態になり、気持ちも安定しやすくなる。しかし、椅子に座り続けていると動きが止まりバランスが崩れてくる。椅子を設計する際に、骨格と重力の関係を想定していないからだが、座ったときに土台となる骨盤が少し傾くだけで、骨盤の上に背骨をしっかり乗せることができなくなる。すると、身体から軸が抜け、力を発揮することができない。それが続くと気持ちが不安定になるのも当然かもしれない。
ここで実験をしたいのだが、椅子に座って上下の前歯をカチカチと軽く鳴らしてみて欲しい。そして、足を組んだ状態で同じように前歯をカチカチしてみると、噛み合わせが変わっていることに気づくだろう。身体が重力に対して最適化しようと瞬間的に反応することに驚く。先の調査結果では、日本人は1日平均約7時間も座り続けているそうだ。その時間を寿命を縮める時間にするのではなく、心身を健康にする時間にしてもらいたい。そんな想いでこの椅子を開発した。
植物は根っこをしっかり張ることで、重力を利用して、上へ上へと伸びることができる。人間も土台がしっかりしていれば、背骨は自然と上へ伸び、気持ちも上向きになる。昨年は社会の土台が大きく揺らいだ。それにより見えなかった不安が目に見える形となって現れたようだ。これまで座り続けていたのは、すでに脚が壊れていた椅子(土台)だったのかもしれない。
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