代表を務める編集室Rootsの編集ライター講座には、人の印象を「オノマトペ」で表現するなどのちょっと面白い授業があります。

「では次にYさんのイメージは?」と5分ほどのシンキングタイムを経て、それぞれが、Yさんをイメージしたときに出てくるリズムをオノマトペとして発表していきます。

「私が思うYさんは『たーん、たんっ、たらら〜ん!』という感じ」
「僕の思うYさんは『たりらりたりらんっ! んっ! とーん!』かな」
……などと一人ずつ発表していくと、あら不思議。「あぁ、なるほど!」「うんうん」と共感が多く集まってしまう、とても楽しくて評判の授業です。

ほかにも「言葉」について、そこから感じる印象がいいかどうか、その言葉に感じる疑問、あえて悪意ある解釈……など、みんなで紐解いていこうというものもありまして、お題として昔からよく出しているのが「素直」という言葉。

「素直」ってなんやねん? (あえての関西弁で)

職業柄、私は言葉の「定義づけ」が非常に気になるのです。

でね、15年ぐらい前かな。アムウェイなどのネットワークビジネス系の人によく誘われていた時期があります。ネットワークビジネスを嫌っているわけでも、アムウェイを嫌っていたわけでもありません。私、商品はちゃんと使ってみるタイプなので、「活動」をするかどうかはさておき、お友達が「いいよ〜」というものは、毛嫌いせずに試してみます。

そうすると、イコール、「活動してくれるのね!」っていうママ友達が多いのですが、いやいやちょっと待ってくれ、と。

私にとっては、商品を好む=活動する、とはならないし、
友達がやってる=活動する、ともならない。
そして、活動しない=友達を信頼していない、ではない。

そういうネットワークビジネスのアップの人たちが口を揃えて言うのが
「素直になりなさい」
なのです。

聞いたこと、ありませんか? 私は複数のネットワークビジネスの「アップ」にこの言葉を言われましたよ〜。

そこで、私は15年前に考えました。
「そもそも、『素直』ってなによ?」。

カラーのイメージでは「白」なので画像は雪景色にしましたが、「何色にも染まる」という意味で「素直」のイメージであると同時に、実は、「白」は「拒否」を表す色という説もありますよね。興味深い。

goo国語辞書によれば、

1 ありのままで、飾り気のないさま。素朴。
2 性質・態度などが、穏やかでひねくれていないさま。従順。「素直な性格」「素直に答える」
3 物の形などが、まっすぐで、ねじ曲がっていないさま。「素直な髪の毛」
4 技芸などにくせのないさま。「素直な字を書く」5 物事が支障なく、すんなり進行するさま。

ということですが、よく使われているのは「2」の意味ではないでしょうか。このネットワークビジネスのアップの人たちのいう「素直」は、2の中でも「従順」の意。

「アップの話を受け入れてアムウェイの活動をする気になる」=「素直」。そういう意味で使っていたのです。つまり「はい! 活動してみます!」とならない私は、彼女たちの話を歪んで捉えているのではないかという疑いをかけられていたわけですね。

つまり、彼女たちの考えを支持し、彼女たちの話を「すごいね」と受け入れることが、彼女たちのいう「素直」なのだと、私は解釈しました。

「そっくりそのまま、そのセリフをお返しします」です(涙)。

夢中になれる仕事や夢を持っていない人とか、現実の日常生活にわくわくすることを見つけられていない主婦さんから見ると、そのアップの方はすごいのかもしれません。でも、大変失礼ながら、私から見ると「憧れの対象」ではなかった(そもそもその方は経済的に恵まれたところからスタートしているので共感もできず)。

たくさんの人にインタビューしてきていますので、多少のことでは「まぁ、すごい!」とは思うことがないというのもあります。でも、逆に、有名無名に関わらず、「それぞれの人が実はすごい!」ということもインタビュー経験からわかっています。だから、そのアップを崇拝し憧れ「活動」を始めたばかりの人たちのなかに「あなたのほうが魅力的なのに……」と思う人がたくさんいることにも気づけるわけです。

みんなが言う「すごい人」が、私にはすごいとは限らないし
みんなが言う「すごくない普通の人」が、私にはすごいのです。

私は「アップ」の人の「素直になりなさい」「素直が一番よ」という言葉にいつも「面倒だな」と思っていました。決して、自分一人で3人の子を育てあげるのに十分な経済力があったわけでもないし、実家とも折り合いがよくなかった。でも、それでも「だからアムウェイ」ではなかった。なによりも「人を集めてなにかを広める」という行為に興味が持てなかったのが、活動をしない理由だったのです。

それよりも「編集ライター」や「癒し系」の仕事が楽しいし、コツコツでもいいから、そういうことをしたい。それに、冷静に見てみると、ネットワークビジネスは「早く活動し始めたもの勝ち」ですよね。後から広めていくには限界がある。特に、アムウェイは私は1980年代から知っていたので、当時(2004年ごろ)は日本ではすでに飽和状態だろうなと思っていました。いずれにしても活動したいとは思わなかった。お鍋もフードプロセッサーも好きで愛用しているし、ニュートリも好きだけど、活動は別。

活動をしないと何度も伝えているのに、「やってみようよ!」「料理も上手になるよ」「アムウェイをやったらキラキラできるよ」と、当時アムウェイに誘ってくれたママ友。彼女は、同じく3人の子を持つシングルマザーでした。

私は、料理もそこそこセンスある自負もあるし、仕事や音楽活動をして生活も楽しんでいたし、離婚はしてたけど魅力的な年下の恋人もいたので、特に「変わりたい」「私、キラキラしたい」とも思っていなかった。成長し変わり続けている自負もあったし、それだけの努力もしていた。

私のことをよく知らずに「変わろうよ」って、ちょっとひどくない?

というのが私の本音だった。イベントなどには何度も参加してみたけれど、断り続けた。すると、誘ってくれてたママ友達には、しまいに「それで本当に3人を育てていけるんやね?」と大きな声で怒られたのです。

え? それなに? 私、なんでこの人に怒られてるの?
別に彼女に迷惑をかけたわけでも頼ったわけでもないのに
なぜそこまで介入されるの?
彼女たちの言う通りにしないと「素直」じゃないの?

理不尽だなと思いました。今思うと……ですが、彼女は私のことを気に入ってくれていて、ものすごくいっしょにやりたかったのだろうと思います。仕方なく私は、A4で5〜6枚に及ぶ、「あの言葉は悲しかった」「私がなぜアムウェイをしないのか」「アムウェイはしないけどあなたのことは好きなのよ」ということを必死で綴った手紙を書いて渡しました。

以来、私は「素直」という言葉にかなりの不信感を抱いています(笑)。

「素直な人」って「人の話に疑問を持たずに従順に受け入れる人」でしょうか。「素直な人」って「人が良さそうで正直に話をしてそうな人」なのでしょうか。

「素直」ってあやしい。「素直」って怖い。「素直」って脅迫だ。なにより、goo国語辞書「1」の「ありのまま」という意味では、ちゃんと断る私って、めちゃくちゃ自分の気持ちに「素直」なんじゃないのかなぁ……(^_^;)

普段から使っているからこそ、母国語は「定義」が曖昧です。その言葉を発する人が実際にどういう意味で使用しているのか、それをすり合わせないまま使うから、厄介。定義の違いを認識せずに感情のままに「言葉」だけをぶつけ合うと、傷つけたり傷つけられたりします。

一つひとつの言葉が持つニュアンスや定義は、本当は人それぞれ違うはず。その「違うんだな」という互いのフィルターをしっかり認識することも、インタビュアーには必要だったりします。

「違う」とわかるだけでいい。「どういう意味でおっしゃったのか」を、相手に「素直」に確認だけすればいいのですから。

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